紅花紬とは

紅花紬は、山形県米沢市で作られる草木染めの絹織物です。
山形と言えば、昔から日本の織物の名産地として名高く、様々な種類の織物を生産していることで有名ですね。
その中でも最も有名なのが紅花紬。
草木染めを特徴とする米沢織のうちの1つなのですが、紅花紬は特に珍しい「花」を原料とした染料を用いて染めた糸を織って作られます。
その名の通り紅花を用いて染められるのですが、色合いを出すのが難しく、思い通りの色に染め上げるには大量の紅花を必要とするため、とても作るのが難しい紬とされています。

紅花はエジプトから始まり、地中海やインド、中国を経て日本に伝わったとされています。
別名を「末摘花」ともいい、あの源氏物語にも登場しています。
作中では物語一の不美人とされている末摘花ですが、この渾名の由来は彼女の鼻が赤いことを紅花の花が赤いことにかけて光源氏が命名したことから来ています。

紅花紬の歴史

紅花は室町時代に山形県に流入し、最上川流域で栽培や取引が盛んに行われ、その価値は金の何倍にもなっていました。

この換金政策を行ったのが、大河ドラマでもおなじみの直江兼続です。

この地方で作られる紅花は「最上紅花」といわれ、江戸時代には高級ブランドとして確立しました。
そのため、紅花から作られる口紅や織物は当時から高級品とされていたのです。
主に京へ出荷され、西陣織などにも使われていました。
紅花紬は、直江兼続の時代から200年後、当時米沢の藩主であった上杉鷹山による米沢藩の再生運動から始まりました。
関ヶ原の戦いののち、かつての勢いを失くし翳りを見せていた米沢藩を復興すべく、鷹山は倹約や産業の振興に力を入れ、養蚕・染織の文化が米沢の地に花開いたのです。

鷹山が行った政策として、武士の婦女子に内職として機織りを習得させたというものもあります。
これらの鷹山の産業振興によって米沢は日本有数の染織産業に至るまでその伝統を脈々と受け継いできました。

上杉鷹山は着物産業と非常に縁深い人物なのですね。

ちなみにこの上杉鷹山という人物、江戸時代では指折りの名君であり、今は亡きジョン・F・ケネディが最も尊敬する政治家としても名前を挙げています。
「為せば成る、成さねばならぬ何事も 為らぬは人の為さぬなりけり」
という誰もが一度は耳にしたことのある格言でも有名な人物ですね。

ところが明治時代以降、中国の安価な紅花や化学染料の台頭により最上紅花は廃れていってしまいます。
その後、保存会や連合、機屋により、最上紅花の再興を促す活動がスタートしました。今日では、地域で最上紅花をPRするような試みも行われ、主に観光用や染物などで用いられています。

紅花染めの製法

1・水を含ませた紅花を踏んで黄色い色素を抽出する

2・それを更に水洗いし黄色い色素を何度も抜く

3・これを繰り返したのち、残ったものを発酵させる

4・酸化し、柔らかくなったものを潰して丸める。

5・乾燥させる(この時に出来るものを紅餅という)

 

というような工程になっています。

紅花から採れる染料はそのほとんどが黄色ですが、僅かに赤いものもあります。

ピンク色に染め上げるには100万輪もの紅花を必要とすると言われています。

最初に採れる黄色の色素は量が多く、紅花染めの中では比較的染めが簡単に出来ることから昔から様々な人達の着物に用いられてきました。

 

一方、赤の色素は紅餅を用いて抽出します。

この紅餅から赤の色素を抽出するまでに黄色の色素を抜くといった作業を繰り返さなければならず、また綺麗なピンク色に染め上げる為には黄色の場合と違い灰汁などの様々な材料が必要であった為、大変に手間のかかるものでした。
そのため紅花によって染められた織物の中でも、とりわけピンク色に染め上げられた紅染めのものは身分の高い人しか着られない高級品だったのです。

紅花紬の色合いは、紅花から採れる染料を太陽光線に当てたり、媒染剤などによって様々に変化させて作り出しています。

紅花による草木染めは湿度や気温に大変影響されやすく、熟練の染め職人さんも悩ませる程のデリケートな染物です。

紅花紬は黄色やピンクなどの淡い色の他にも、黒やグレーといった暗い色に染め上げることも出来ます。

そのいずれも、化学染料では出せない独特の柔らかい色味で大変美しく、本物志向の方にも好まれています。

紬といえば普段着として着られる着物とされていますが、中でも紅花紬は色合いが明るく上品なので様々なシチュエーションやコーディネートで活躍します。
名古屋帯、半幅帯などの帯や小物によって少し畏まった雰囲気にしたり、カジュアルにしたりと着回しの利く紬です。

着物自体のコントラストが弱く優しい印象なので、少し変わったデザインや濃い色の帯などを着てみたいという時、モダンな着こなしがしてみたいという時にチャレンジしやすい組み合わせだと思います。

その製法の難しさから、あまり手軽に入手出来るお値段ものではありませんが、実際に手に取って見てみると風合いや色味の美しさに感動するでしょう。