豪雪地帯として知られる塩沢で織られる塩沢紬は、落ち着いた絣模様と絹の手紡糸特有の肌触りの良さが、多くの着物ファンに支持されています。
古く奈良時代から続く塩沢紬は、本塩沢や越後上布とともに伝統工芸品の指定を受けていますが、根気と丁寧さなしではできない仕事のため、生産量が年々少なくなっているようです。
塩沢紬とは?
新潟県南魚沼市周辺で織られている絹織物で、伝統工芸品に指定されていますが、継承者が減り「幻の紬」とも呼ばれています。
塩沢紬の製作工程について
・図案づくり
方眼紙に図案をデザインします。
・糸づくり
生糸、玉糸、真綿から塩沢紬に用いられる糸が作られます。
生糸は経糸に使われる糸で、より合わせて作ります。
玉糸は蚕が作る繭から引き出し、よりをかけて作ります。
真綿は、綿を煮込んでアクを抜き、手で細くのばしながら1本の糸にします。
・墨つけ
張り台に張った緯糸に墨で模様の位置に印をつける作業を墨つけといいます。
印をつけた部分を固く括り、染料が入らないようにします。
・すり込み
専用のへらを使って墨つけされた緯糸に染料をすり込んでいきます。
その後、蒸してから乾かします。
・機織り
機織りの準備をし、経糸と緯糸の模様がずれないように織っていきます
・仕上げ
糊を洗い流して、織むらや染むらなどがないか検品をおこないます。
塩沢織について
塩沢織は越後上布、塩沢紬、本塩沢、夏塩沢がありますが、それぞれの織物に無地、縞柄、絣があり、いずれもおしゃれ着として用いられます。
塩沢紬は、麻織物の技法を絹織物に取り入れて織られた、新潟県を代表する織物で、塩沢織の約6割を塩沢紬が占めています。
塩沢紬と本塩沢の違い
塩沢紬は経糸に生糸を緯糸に真綿の紬糸を用いて織られた織物です。
「塩沢お召」として知られている本塩沢は、先染めの平織りで緯糸に強いよりをかけて、独特のシボを出しています。
また、塩沢紬は織り上がった布がザラっとしているのに比べ、本塩沢はサラサラとした手触りで、着るとシャリ感があり、単衣に仕立てても涼やかに着ることができます。
塩沢紬と本塩沢は、同じものと間違われやすいですが、全く違うものです。
塩沢紬の歴史
今から1200年以上前の奈良時代に織られた、塩沢紬の原点ともいえる越後上布の織物が、奈良の正倉院に保存されています。
塩沢紬が本格的に織られだしたのは江戸時代の中頃からで、明治時代になると夏塩沢が織られるようになりました。
第二次世界大戦中は生産が途絶えたものの、戦後は組合なども作られ積極的に新しい商品開発に取り組まれるようになりました。
1975年には経済産業大臣指定の伝統工芸品として認定されるとともに、2009年にはユネスコ無形文化財にも指定され、大島紬、結城紬とともに日本三大紬として知られています。
塩沢紬の特徴
原材料は生糸、玉糸、真綿の手紬糸が用いられています。
絹の生糸は繭から糸を引き、より合わせて均等な糸を作り出しますが、紬は繭を煮て綿状にしたものを手で伸ばしていきます。
そのため、糸の太さが少しずつ違い、ざっくりした質感と独特の風合いがでます。
塩沢紬は、細かい「蚊がすり」とも呼ばれる模様や「十字絣」「亀甲絣」などの絣模様が特徴です。
絣は糸を染める際に、図案に基づいて糸を括り、染残すことで計算された細やかな模様を作り出す技法です。
色合いは、紺や黒地に白が配色されたシックで上品なものが多く見られます。
真綿を用いているため、紬独特のざらっとした風合いの中にも光沢があり、数ある紬の中でも特に柔らかくて肌触りが良く体になじむので、エレガントさが漂う紬といえます。
紬の格について
少し前までは紬はいくら高価なものでもおしゃれ着扱いとされていました。
今でも正式なお茶会やパーティーでは敬遠されることが多いようですが、一つ紋が入った色無地や訪問着は、着物通の人には好まれているようです。
紋なしの紬の色無地は、ちょっと気の張った場所にもおしゃれ着として若い世代にもおすすめです。
一般的には紬の着物は、洋服でいえばジーンズスタイルといったカジュアルな感覚のものですが、帯を拡張高い献上柄などにすると気のはらないパーティーなどにも着ていけます。
以前は織の着物には染の帯と言われたものですが、最近ではあまりこだわらないようです。
・紬は庶民の着物
士農工商といった身分差別激しい時代には、町人や農民は絹物を着ることが許されませんでした。
ところが紬は絹を使用していたものの、上等の繭ではなくあまりもののくず繭を使って織られていたため、着ることが許されるようになりました。
紬は耐久性に優れているとともに保温性もあり、日常着としてとても重宝されていたようです。
まとめ
年々生産量が減り「幻の紬」と言われる塩沢紬に惹かれる着物通の人は多いようですが、見事な絣模様は男性女性を問わず、憧れの逸品といえます。
寒い土地ならではの風土と、誠実な人柄がにじみ出る塩沢紬に手を通したいものです。