繊細な絣模様で、素朴ながらも上品な風合いが美しい塩沢紬。
織物の名産地でもある新潟県南魚沼市で生産されている先染めの絹織物です。
そのシャリ感とざっくりとした軽やかな雰囲気は、しばしば単衣の生地として使われています。
塩沢紬の歴史
塩沢紬が生産されている南魚沼市一帯は、古くからの織物の名産地。
特に麻織物の歴史は古く、奈良時代にはすでにこの地で生産された麻布が朝廷に献上されており、正倉院にも納められています。
塩沢紬は、この麻織物の技術を絹織物に取り入れたもの。今から250年ほど前の江戸時代(1764~1771頃)に始まったと言われています。
その後、1975年には経済産業大臣指定伝統的工芸品に、2009年にはユネスコ無形文化財にも指定され、日本を代表する貴重な織物のひとつとして知られています。
塩沢紬ができるまで
異なる経糸と緯糸
制作工程における塩沢紬の大きな特徴といえば、使う糸の種類。経糸には生糸と玉糸を、緯糸には真綿手紡糸(まわたてぼうし)を使用します。
真綿手紡糸とは、真綿が均一の長さになるように丁寧に手で引き延ばし、細くて艶やかな糸を紡ぎだす方法のこと。
これは、越後上布などの麻織物において、原料である苧麻という植物を糸にする苧積み(おうみ)という技術から来ているものです。
このように、経緯で糸の種類が違うので、塩沢紬ならではの独特の風合いを感じることができます。
手括りと手摺り込み
染色は、手括りや手摺り込みという技法によって進められます。
「手括り」は、緯糸の絣模様の位置に墨印をつけ、その部分を綿糸できつく縛る方法です。
その後、緯糸の必要な部分にヘラを使って染料を摺り込んでいく「手摺り込み」を行い、高温の蒸気の中に入れて色を定着させます。
染色が終わったら高機と呼ばれる織機で、絣糸を1本1本あわせながら丁寧に生地を織っていきます。
ちなみに、現在出回っている塩沢紬の中には、このような伝統的な技法ではなく、機械によって作られたものも。
ただし、国の伝統的工芸品指定されている塩沢紬と呼べるものは、以下の4つの条件を満たしているものだけになります。
- 先染の平織
- 経糸に生糸・玉糸を使用し、緯糸に真綿手紡糸を使用
- よこ糸の打込みには手投杼を使用
- 絣糸の染色法は「手括り」「手摺り込み」又は「板締め」によること
塩沢紬の特徴
塩沢紬は、蚊絣、十字絣、亀甲絣などの繊細な絣模様が魅力。
唐草や幾何学模様などさまざまな模様がありますが、色は渋い色調のものが多く、上品で落ち着いた着姿を楽しめます。
真綿を使用しているため、光沢は少なめ。
異なる経糸と緯糸による、生地表面の小さな節が塩沢紬独特の風合いを演出します。
また、「単衣といえば塩沢」としても知られており、初夏や初秋などの短い時期に非常に重宝される着物でもあります。
独特のシャリ感があり、ざっくりとした風合いは単衣の季節にぴったりです。